白百合に捧ぐ
声を聞いたと少女が言った
齢十六の若い村娘
乙女の噂のそのままに
祖国のためにと少女が言った
疑い隠れる王太子
王座に臣下を座らせて
彼女の姿を瞳にうつす
はたして少女は真か嘘か
好奇の視線をあびながら
男装をした少女はされど
王座をちらと見ただけで
彼を振り向き跪く
王子の援軍引き連れて
少女は鉄色の兜をかぶり
天使の描かれた旗を握る
聖歌を歌いていざゆかん
長い包囲に疲弊した
村人達が彼女を迎える
「噂の聖女がやってきた!」
聖女はけれど微笑むばかり
戦いの中流れ矢が
聖女の左肩を討つ
かすり傷ではあるけれど
不安のあまり泣き出す始末
それでも兵士を引き連れて
神の御旗をふりかざし
勇猛果敢に鼓舞する姿
ついに村は解放された
王はどこかと人々が問う
王はここだと聖女が叫ぶ
戴冠の地を奪還し
聖女の神託は達成された
残すは都と意気込む聖女に
国王は無言を貫き通す
やがて聖女は見放され
孤独の戦いを強いられた
祖国のためにと戦う聖女
自分の退却待たずして
吊り上げられた城への跳ね橋
とうとう敵に売り渡された
幽閉された塔からは
一体何が見えたのだろうか
異端審問にかけられて
一体何を想ったのだろうか
聖女は異端者とされ
火あぶりの刑に処せられた
人の集まる広場の中央
積み上げられる薪の上
神の名前を叫べども
もはや何も聞こえない
聞こえるのは人々の涙
臨むのは掲げられた十字架
いよいよ炎は彼女を包み
何もかもを燃やし尽くした
灰に変わる聖女の姿
白い鳩が飛び立った
愛する祖国のためにと戦い
愛する祖国のためにと憂い
愛する祖国の地で焼かれ
たった十九の幕を下ろした
はたして彼女は
聖女か魔女か
いいえ
あの子はただの少女